ジャック・ニコルソンの出世作といえば、「イージー・ライダー」が有名ですね。
今回は、
- ジャックニコルソンの若い頃はロジャー・コーマンの影響大
- ジャックニコルソンの若い頃は「イージー・ライダー」の弁護士役で
- 「ファイブイージーピーセス」ってどういう映画?
に絞って考察します。
ジャックニコルソンの若い頃はロジャー・コーマンの影響大
ジャック・ニコルソンは、「イージー・ライダー」以前に2本のライダー・ムービーに出演しています。
「ダーティライダー」と「爆走!ヘルス・エンジェルズ」
2本ともニコルソンが敬愛するロジャー・コーマンの門下生たちが低予算で撮った映画です。
「ダーティライダー」は1961年の作品で、脂ぎってあくが強く、キラー・スマイルを見せるという、我々がよく知っているニコルソンがすでにいます。
ただ出番が少なく、最後は暴走族のリーダーに殺される羽目に。
もう一本の「爆走!ヘルス・エンジェルズ」は、実際の暴走族ヘルス・エンジェルズに取材して撮ったというだけあって、力感は他のB級バイク映画には及びもつかないとのこと。
「爆走!ヘルス・エンジェルズ」は1967年の映画ですが、すでに「イージー・ライダー」の成功の下地はこの頃からあったといえそうです。
次にロジャー・コーマン監督の作品を。
「テラー~恐怖」という映画で「古城の亡霊」というタイトルでもビデオ化されました。こちらの方が有名でしょう。
コーマンが前作「忍者と悪女」のセットを使って、わずか3日間で撮り上げたといういわく付きの作品です。
でもそうは見えず、ホラー俳優の第一人者のボリス・カーロフとジャック・ニコルソンの共演には素晴らしいものがあります。
ボリス・カーロフは、「フランケンシュタイン」で始めてモンスター役を演じていましたね。
「古城の亡霊」のストーリーは、ナポレオン軍の将校に扮したニコルソンが、軍隊とはぐれ、海辺で不思議な女性に出会うところから始まります。
その後、女を探しに古城に出向いていき、城に住んでいるボリス・カーロフ演じる男爵に会う、というように進んでいきます。
この作品で特徴的なのは、ニコルソンの演技にあくの強さが感じられず、俗にいうクラシックな演技に徹していることですね。
ジャックニコルソンの若い頃は「イージー・ライダー」の弁護士役で
1960年代後半に台頭してきたアメリカン・ニューシネマの萌芽としてあまりにも有名な「イージー・ライダー」
本来ヒッピーであるピーター・フォンダ演じるキャプテン・アメリカやデニス・ホッパー演じるビリーと、弁護士役のジャック・ニコルソンが交わるはずはないんです。
ニコルソン演じるジョージ・ハンソンは弁護士ですから、権威、権力を持つ体制側の人間のはず。
でも、その正体はというと、週末になると酒を浴びて、毎度のように留置場で一夜を明かすありさま。
その上、キャプテン・アメリカとビリーにフラフラついていくおぼっちゃん育ちが抜けきらないような不良中年ですからね。
一応堅い職業の人が身に着けるようなスーツや眼鏡をしていますが、どことなくしっくりこない感じが否めません。
ただ、ビリーたちの「自由」が人々を怖れさせ、それが二人にとって非常に危険なことを予言する時のニコルソンは、神秘性に満ちています。
でも、この先見の明は自分にそのまま降りかかってきます。
体制にストレートに反発したキャプテン・アメリカとビリーの壮絶な死は、自ら運命外の死を招いたといえるでしょう。
でも、ニコルソン演じるジョージ・ハンソンは、面白そうだからと二人に付いていくことにした巻き添え死です。
一見運命外、想定外に思えますが、運命の死に思えてなりません。
「ファイブイージーピーセス」ってどういう映画?
ジャック・ニコルソンの初主演作で、中年にさしかかっても自由奔放で自堕落な生活を送る男の吐き出しきれない魂の叫びを描いた作品。
題名の「ファイブ・イージー・ピーセス」は、簡単な5つのピアノ曲のことで、それも弾けないほど日常生活から遠ざかってしまったことを表しています。
ニコルソン演じるロバートは、何不自由のない音楽一家で育ったのに、数年前に家を出て以来、その日暮らしの生活を送るはめに。
冒頭で、石油採掘現場の労働者として働くシーンが出てきます。
でも、仕事に縛られるのを嫌って、金があるうちは明日は仕事場に出てくるかわからない、といった不安定な状態に甘んじています。
毎日の不満は、同棲する歌好きのカレン・ブラック演じるレイにやり場のない怒りをぶつけることで何とか解消しているありさま。
常に愛を求めながらも、与える一方のレイの気持ちに応えることのできないロバート。
彼は父の具合が悪くなって始めて家に帰るのですが、そこで兄の妻キャサリンと一時的に情事を持ってしまいます。
でもキャサリンから、「自分に愛も尊敬も持たない、何も愛せない人に愛は要求できない」と拒絶されてしまいます。
ロバートは、ここにもすでに自分の居場所がないことをはっきり認識するはめに。
でも、仕方がない部分もあります。
拒絶することが生きることであるロバートには、将来などありません。
要するに、社会が望む者にはなれない、と。
それに、レイはロバートの自由奔放さの魅力に惹かれていたわけですが、彼が変わらない限り、レイの望むものは得られないわけです。
将来の約束をしていなかったロバートは、レイに対する責任感など最初から持っていません。
監督のボブ・ラフェルソンは、人生を投げた人間の精神的疲労感を、自堕落の一要素を持つと見られるロバート役のジャック・ニコルソンに見事に背負わせた、といえるでしょう。
ラストシーン、ロバートは立ち寄ったガソリンスタンドで、あり金を渡し、レイからもこっそり立ち去ってしまいます。
残されたレイはかわいそうな気もしましたが、このままロバートについて行っても明るい未来は望めない。
ロバートの精神的放浪生活が、この先もずっと続いていくことを象徴するシーンでした。
この映画は、当時のアメリカ社会の拒絶を表現しました。
現代の日本に当てはめると、正規雇用の道が閉ざされる人が増え、一度道を踏み外すとリカバリーが難しいので、望むと望まずに関わらず、ちょっとしたことでロバートのような人が出てしまうのではないか、とも思えました。
まとめ
B級映画の帝王ロジャー・コーマンの専属俳優だったジャック・ニコルソン。
彼が初めて脚光を浴びた出世作「イージー・ライダー」は、それまで二流俳優に甘んじていたピーター・フォンダと、監督デビューも果たしたデニス・ホッパーの熱意の結晶といえます。
アンチ・ヒーローとしてこれから活躍していくことになる、ジャック・ニコルソンをアカデミー賞の助演男優賞にノミネートさせた作品でもありますね。
「ファイブ・イージー・ピーセス」は、監督のボブ・ラフェルソンとカレン・ブラックが、それぞれ監督賞と助演女優賞をもらったのに、ニコルソンはなし。
味のある演技だと思ったのですが。
「ファイブ・イージー・ピーセス」は学生時代に観たのですが、社会人になってある程度年齢を重ねてから観た方が、より魅力を味わえるというか、身につまされると感じました。
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