「炎のランナー」は、様々な事情を抱えながらも、目標に向かって切磋琢磨していく若者たちの姿を魅力的に描いた作品です。
主人公の一人エリックリデルに関連して、安息日というちょっと聞き慣れない言葉や、再見して新たに気づいた点をあらすじとともに紹介します。
安息日とエリック・リデルについて
この映画を映画館で観たとき、つまり字幕で見た時に「あれ、どういうことだろう?」と思ったシーンがありました。
エリック・リデルが、パリで行われるオリンピックに出場するために船に乗り込む時です。
「100メートル走の予選は日曜日に行われるぞ」と聞かされた瞬間、彼は動揺した表情を見せます。
その時は、なぜ日曜日が良くないのか程度の理解でした。
でもすぐ後に、エリックは選手であると同時に宣教師であることを思い出します。
日曜日は神が定めた安息日ですから、その日に走るというのは、戒律を破ることを意味します。
だから、エリックは狼狽したのだと納得しました。
それに、このシーンに行くまでに伏線が張ってあります。
日曜日にボール遊びをしている子供にエリックが、「今日は何曜日だい?」と聞くと、子供は「日曜日」と答えます。
「じゃあ、安息日だからダメじゃないか」と諭すシーンです。
まあでも、映画に熱中していると、この子供とのやり取りのシーンは、それほど大事とはすぐに気づかないと思います。
こういう、日本とは違う習慣、風習などを説明する時は、吹き替え版は便利ですね。
映画館で観た後に、しばらくしてテレビ放送があり、その時に安息日のことも詳しく説明してあったので、わかりやすかったです。
ところで、もともと安息日というのは、仕事を休み宗教的儀式を行う日のこと。
キリスト教では日曜日ですが、ユダヤ教では土曜日ということでした。
次に「炎のランナー」のあらすじと、以前は気づかなかった人物の魅力について触れようと思います。
「炎のランナー」のあらすじ
1919年、英国の名門校ケンブリッジ大に、ハロルド・エイブラハムズという一人のユダヤ系青年が入学します。
ハロルドは、オリンピックの100メートル走に出場するほど俊足なわけですが、彼の原動力は異常ともいえる勝利への執着心。
持って生まれたユダヤの血ゆえに、有形無形の差別を受け続けて彼にとって、勝利こそ偏見と差別を打ち破る力となったからです。
もう一人の主人公は、エリック・リデル。
スコットランドで、英国一の俊足と評判の青年宣教師です。
彼は神のために走ると公言していましたが、彼の妹は兄に早く競技を辞めて、一緒に宣教活動に専念したいというものでした。
エリックの評判を耳にしたハロルドは、偵察に競技場に足を運びます。
始めて見るエリックの脚力は、感動を覚えるほど。
レース後エリックは、陸上のコーチとしては欧州随一と言われる、イアン・ホルム演じるムサビーニに会います。
ハロルドのコーチ要請に、ムサビーニは即答を避けます。
「オリンピックに優勝できるだけの素質が見い出せたら引き受けようと」
オリンピック・パリ大会を翌年に控えた1923年。
ロンドンで開催された競技会の100メートル走で、ハロルドとエリックは初対決。
結果は、わずかな差でエリックの勝利。
常勝を自らに課してきたハロルドにとって、受けたショックは大きかった。
何せ自分の存在意義がなくなってしまうわけですから。
そんな彼を救ったのは、婚約者とムサビーニのコーチを引き受けようというひと言。
ムサビーニはハロルドに言います。
「100メートルは神経で走るもの。確かにエリックは強い、でも彼は中距離向きだ」と。
そして、「私がコーチすれば、エリックに勝てるとも」
その後、エリックは研鑽を重ね、パリ大会の100メートル決勝では、ただ一人の英国選手としてスタートラインに立ち、見事に勝利を収めます。
もうひとりの主人公エリックは、安息日の問題であくまで戒律を守って、予選に出場しないと主張。
大会の幹部との間にとげとげしい雰囲気が流れるのですが、この窮地を救ったのが、ハロルドの同僚のリンジーです。
彼は貴族の一員なので、皇太子などお偉方にも臆することなく提案ができました。
「自分はもう銀メダルを取ったので、400メートルはエリックに譲りたいと」
これで、走る距離こそ変わりましたが、エリックは信念を守りながら走る機会を得られます。
400メートル決勝。もともと短距離より中距離に適性があったエリック。
しかも、神と共に走る彼に敵はいませんでした。
エリックが走る直前に祝いのメッセージのメモを渡した、ブラッド・デービス演じるショルツも印象深かったです。
気になった登場人物について
最初に映画館で見た時は、どうしても二人の主人公、ハロルド役のベン・クロスとエリック役のイアン・チャールスンに注目します。
その後、テレビで吹き替え版を見た時は、ハロルドの仲間のリンジー役のナイジェル・ヘイバースに目が向きました。
映画の最初と最後のシーンに浜辺を走る所があるのですが、彼は笑みを浮かべて走っているんですよね。
貴族の出自が関係しているのかもしれませんが、どこか余裕があります。
それに比べると、ハロルドは神経質な感じが出ているし、エリックはあくまで生真面目な雰囲気が出ていました。
エリックの安息日の問題もリンジーの明るさ、他者を思いやる余裕が解決してくれました。
次に気になったのは、ムサビーニコーチ役のイアン・ホルム。
初見は「エイリアン」でしたが、全く違った魅力を見せてくれました。
ただ、悲しかったのは、イタリアとアラブの混血ということで、ハロルドの100メートル決勝を間近で見られなかったこと、会場に入れなかったことですね。
近くの宿舎で、国歌と共に英国の旗が一番高く掲げられた時、喜びのあまり自分の帽子を拳で突き破ります。
あのシーンが、この映画の中で一番胸がすくところでした。
最後に、ショルツ役で出演したブラッド・デービス。
「ミッドナイト・エクスプレス」以来ですね。会いたかったです。
出番こそ少なかったですが、彼を見られて嬉しかったです。
まとめ
映画の醍醐味は、映画館の大スクリーンで観ることかもしれません。
でも、外国の風習などは、字幕だけではわかりにくい時もあると思います。
字幕には、字数や表示時間の制限もありますしね。
今回は安息日というキーワードを取り上げましたが、吹き替え版には気楽に見られるだけでなく、別の気づきを得られるメリットもあると感じました。
自分が感情移入できる人物は、必ずしも主人公とは限りません。
「炎のランナー」の主人公、ハロルドの生き方はユダヤ人のために仕方がなかったとはいえ、息苦しく感じられる部分もありました。
神とつながる喜びを感じているエリックや、リンジーの大らかさに、再見した時はより魅かれましたね。
あと、ムサビーニの無念さなども初見より伝わってきました。
自分がいいと思った映画は時折見直してみると、また、字幕版と吹き替え版で味わいが違ってくると感じた一本でした。
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